レトリックの主な目的は、表現法を工夫することで、受け手に何らかの効果を与えることです。効果を分析するというのは、ある言語表現を使うことによって、その結果として受け手に何が起こるのかを分析することだと言えます。修辞的効果とは、レトリックによる表現効果です。修辞的効果としては、例えば、自然現象がまるで人間の感情をもっているかのように感じられる、表現が簡潔になり伝達する意味が凝縮される、アイロニカルな調子が出る、反復による音楽的な効果が出る、などがあります。
修辞的効果は、用例のコンテクストを分析することなしには分かりません。この意味で、修辞的効果の分析は、語用論的分析の一種であると言えます。このページでは用例の語用論的アノテーションについて述べています。
本コーパスでは、ある用例のレトリックにからんでいるコンテクストを読み解き、その表現を受け取ることによる効果を内省によってテキスト化します。このテキストを修辞学用語によって分類し、効果のパターンを取り出せるようにします。
このページでは、効果のパターンの見取り図として、言語機能による効果の類型を示します。どのような効果であっても、言語表現の機能の一つであることに、変わりはありません。Jakobson (1960) は、言語コミュニケーションを、発信者、受信者、接触、メッセージ、コード、コンテクストの6つの側面からなると考えるモデルを提案しました。このモデルによると、ある言語表現の主な機能は、焦点化される言語コミュニケーションの側面に応じて、次の6つに分けられます。
修辞的効果の類型では、言語コミュニケーションのいずれの側面を焦点化するかという観点から、語用論的アノテーションを分類する多種多様な修辞学用語を整理します。用語によっては、2つ以上の言語機能に紐付けられています。
以下のような方針で、用例の語用論的アノテーションを行っています。
例えば「頭からは汗が湧出し流れる」では、焦点となるのは「湧出し」という語で、次のような効果が感じられます。
この効果記述は、以下のように、3つの修辞学用語によって分類できます。
認識的 (cognitive) な効果は、言語表現の指示対象を焦点化します。
レトリックは、言葉が表す概念の新しい捉え方を提示する力をもっています。指示対象となっている概念の慣習的な認識をくつがえす修辞的効果が、認識的効果です。
イメジャリー・イメージ (imagery)は最広義の比喩的表現などによる描写中のイメージの総称です。
描写 (description)とは、対象を客観的に観察して知覚し認識して得た内容や感情などをありのままに描き出すことです。
挙例法・例証・範例 (example)は一般的=抽象的な話題(主張)を説明するために分かりやすい例を挙げることです。
表出的 (expressive) な効果は、話者や語り手を焦点化します。
言語表現は、言葉を使う主体の主観的な態度を表出します。主体の感情や評価を示す修辞的効果が、表出的効果です。
言葉が、発信者の人柄や人物像を表出することがあります。
評価 (evaluation)は話者の側からみた話の要点や興味を示すことです。特に、誇張法 (hyperbole)は大げさに言うこと、つまり物事を極端に拡大して大きく表現するか、あるいは反対に極端に縮小して小さく表現することです。
対話的 (dialogic) な効果は、言語表現の受け手を焦点化します。
言語表現を効果的に用いると、表現を受け取る主体に影響を与えることができます。対話的効果は、含意、説得力、配慮などを示す修辞的効果です。
ユーモア (humour)は緊張をやわらげ、上品な笑いを誘う表現効果です。
説得 (persuasion)は言語や記号行為によって他者の意志決定に影響を与えるプロセスです。
交感的 (phatic) な効果では、コミュニケーションのチャネルを持続させたり、活性化したりすることに焦点が置かれます。
表現内容の伝達よりも、その伝達を可能としている言語的コミュニケーションの場に何らかの影響を与える効果が、交感的効果です。
メタ言語的 (metalinguistic) な効果は、言語の形式と意味の慣習的な結合のあり方を焦点化します。
慣習的な語法を知っているからこそ、それがレトリックであると感じられる表現は数多くあります。文法体系や語形式を意識したり、慣習的な記号関係のあり方自体に注意を向ける効果が、メタ言語的効果です。
メタ言語 (metalanguage)は何らかの理由で言語表現に注意を引くために用いられる言語を言います。
ある語句がどんな意味であるか、メタ的に意識させる表現があります。
テクストに言及するテクストは、談話に言及する談話は、間テクスト性をもちます。
詩的 (poetic) な効果は、言語表現の意味ではなく、表現形式それ自体を焦点化します。
表現形式の等価性(ないしは反復)を前景化すると、意味ではなく、形式の価値を引き出すことができます。表現の形式の価値を引き出すのが詩的効果です。
反復法・反復 (repetition)は表現効果を高めるために、同一または類似の語句またはその一部を繰り返す修辞法の総称です。
類像性・イコン性 (iconicity)はある発話の意味論的(「内容」)レベルと統語論的(「形式」)レベルの間の調和です。
言葉遊び (wordplay)は音声言語であれ文字言語であれ、言語本来の機能である伝達を目的とするのではなく、楽しみやゲームの材料や手段として言語を用いて、おもしろさやおかしさを求めることです。
ことば遊びは、意味を背景化し、形式を前景化します。
※用例数は2024年1月22日現在