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index:cx [2019/09/26 15:59]
tk [換喩志向構文]
index:cx [2024/01/21 17:33]
tk
ライン 1: ライン 1:
 ====== レトリックの構文 ====== ====== レトリックの構文 ======
- 
-<WRAP center round important 60%> 
-このコーパスはベータ版です。未完成の箇所があります。 
-</​WRAP>​ 
  
 レトリックには、構文のパターンがある。構文 (construction) は、形式と意味の対である。**修辞性構文** (figurative construction) は、レトリックの構文であり、ある形式のパターンと修辞的な意味のパターンの対である。 レトリックには、構文のパターンがある。構文 (construction) は、形式と意味の対である。**修辞性構文** (figurative construction) は、レトリックの構文であり、ある形式のパターンと修辞的な意味のパターンの対である。
ライン 9: ライン 5:
 ここで記述されているのは、「[[cx:​no-youda]]」「[[cx:​no-marude-youda-wa]]」といった、[[category:​simile]]として議論されてきた構文が中心である。これまで、直喩は、隠喩の明示であると考えられてきた。 ここで記述されているのは、「[[cx:​no-youda]]」「[[cx:​no-marude-youda-wa]]」といった、[[category:​simile]]として議論されてきた構文が中心である。これまで、直喩は、隠喩の明示であると考えられてきた。
  
-しかし、最近の研究から、隠喩の明示とは考えにくいが、形式としては「aのようなb」など、直喩と同じである事例が多数あることが分かってきた。このコーパスでは、広くレトリックの構文パターンを捉えるため、「修辞性構文」として、レトリックの構文を整理する。+しかし、最近の研究から、隠喩の明示とは考えにくいが、形式としては「aのようなb」など、直喩と同じである事例が多数あることが分かってきた。このコーパスでは、広くレトリックの構文パターンを捉えるため、「修辞性構文」として、レトリックの構文を整理する。以下では、構文の概念基盤となるスキーマのタイプに応じて、隠喩志向構文と換喩志向構文を便宜的に区別する。しかし、修辞性構文の全体像は明らかになっているとは言えず、今後の記述の蓄積と改良が待たれる。
  
 ===== 隠喩志向構文 ===== ===== 隠喩志向構文 =====
ライン 31: ライン 27:
   * 「宝石のような瞳」   * 「宝石のような瞳」
  
-という比喩では、Genericにあたる要素は言語化されていない。この意味で、この表現は「[[cx:​no-youda|SのようなT]]」という構文の例である。このタイプの他の例としては、[[ex:​a0104]][[ex:​a2210]][[ex:​a2263]]などがある。+という比喩では、Genericにあたる要素は言語化されていない。この意味で、この表現は「[[cx:​no-youda|SのようなT]]」という構文の例(より具体的には[[fn:​direct-mapping]]の例)である。このタイプの他の例としては、[[ex:​a0104]][[ex:​a2210]][[ex:​a2263]]などがある。
  
 以下は、Target、Source、Genericのどの要素を言語化しているかという観点から、隠喩志向構文をリストしたものである。同じ構文形式「AのようなB」であっても、「SのようなT」と「SのようなG」のように、意味的な対応が異なるバリエーションが含まれるものは、重複してリストされている。 以下は、Target、Source、Genericのどの要素を言語化しているかという観点から、隠喩志向構文をリストしたものである。同じ構文形式「AのようなB」であっても、「SのようなT」と「SのようなG」のように、意味的な対応が異なるバリエーションが含まれるものは、重複してリストされている。
ライン 97: ライン 93:
  
 間接写像構文のなかでも、主観性明示構文と挿入構文は、起点領域と目標領域を関係づけるという点で、比喩的な意味拡張の機能をもつ。これに対して、隠喩支援方略と例示方略は、起点領域や目標領域の概念をより詳しく精緻化する (i.e. 具体化する) という機能をもつ。以下では、これらの構文の区別について、より詳しく述べる。 間接写像構文のなかでも、主観性明示構文と挿入構文は、起点領域と目標領域を関係づけるという点で、比喩的な意味拡張の機能をもつ。これに対して、隠喩支援方略と例示方略は、起点領域や目標領域の概念をより詳しく精緻化する (i.e. 具体化する) という機能をもつ。以下では、これらの構文の区別について、より詳しく述べる。
 +
 ==== 主観性の明示 ==== ==== 主観性の明示 ====
  
-[[fn:​explicit-subjectivity]]は、異なるドメイン間の比喩的な意味拡張を示す機能をもつ構文の一つである。構文が表す修飾関係の被修飾部、ないしは叙述関係の述部がSourceの要素を表す。以下の例のように、叙述構造をもつものが多い。+[[fn:​explicit-subjectivity]]は、起点領域と目標領域の間の比喩的な意味拡張を示す機能をもつ構文の一つである。構文が表す修飾関係の被修飾部、ないしは叙述関係の述部がSourceの要素を表す。以下の例のように、叙述構造をもつものが多い。
  
   * [[ex:​a0674]]   * [[ex:​a0674]]
ライン 138: ライン 135:
  
 隠喩志向構文が、隠喩のスキーマの要素を表すのに対して、換喩志向構文は、換喩のスキーマの要素を表す。 隠喩志向構文が、隠喩のスキーマの要素を表すのに対して、換喩志向構文は、換喩のスキーマの要素を表す。
-[[category:​simile]]の指標は、修辞性構文一つである。直喩の指標は、ある表現が隠喩的な意味をもつことを示すはたらきをすることが多いが、必ずしもそうではない。+[[category:​simile]]は、隠喩と対比で規定されてきた用語である。しかし、従来直喩としてあつかわれてきた表現と同じ形式をもつにもかかわらず、意味的には換喩的な転義が関係する事例が存在する。直喩に含まれる文法形式は、ある表現が隠喩的な意味をもつことを示すはたらきをすることが多いが、必ずしもそうではなく、換喩的な意味合を示す場合もある
  
-[[fn:​description]]+換喩の基本的な概念構造は、Source > Target <- Frameという形式をもつと考えることができる。この概念構造を意味のスキーマとして内在している構文を、**換喩志向** (metonymy-oriented) 構文とよぶ。Source (S) (または媒体 (vehicle))は換喩の意味処理における認知的な参照点 (reference point)となる要素、Target (T) は参照点からのアクセスのターゲットとなる要素、Frame (F) は参照点からターゲットへのアクセスのフレーム (frame) 構造を喚起する要素を表す。換喩志向構文の形式は、この換喩的なスキーマの一部または全てを明示的に言語化している。例えば、
  
 +  * 「物に取り憑かれたように頭がガンガンと痛み出した」
 +
 +という比喩では、以下の対応が見て取れる。この例では、頭痛の原因が、何かに取り憑かれたことであるかのように感じることが表現されている。話者の主観的認識において、「物に取り憑かれる」ことは「頭が痛む」ことの原因として解釈されている。この意味では、両者の間には時間的な換喩関係(=因果関係)がある。したがって、この表現は「[[cx:​youda|SようにT]]」という換喩志向構文の例(より具体的には[[fn:​inference]]の例)であると言える。
 +
 +  * Source = 取りつかれる
 +  * Target = 頭が痛む
 +
 +このタイプの例としては他に、[[ex:​a0289]]、[[ex:​a0298]]などがある。
 +
 +以下は、Target、Source、Frameのどの要素を言語化しているかという観点から、換喩志向構文をリストしたものである。同じ構文形式「AのようなB」であっても、「SようにT」と「TようにS」のように、意味的な対応が異なるバリエーションが含まれるものは、重複してリストされている。
  
 **Source** > **Target** <- **Frame** **Source** > **Target** <- **Frame**
ライン 171: ライン 178:
 }} }}
  
-==== 点シフト ====+==== 推量をあらわす直喩的表現 ==== 
 + 
 +[[fn:​inference]]は、2つの事態間の主観的な因果関係や指標関係を表現する換喩志向構文である。(1) のように、比喩的な修飾節が主観的な原因事態を表し、主節が主観的な結果事態を表すものがある。逆に、(2) のように、比喩的な修飾節が主観的な予想結果の事態を表し、主節がその原因を表す(“これほど冷たいから、冷たさのせいできっと手が切れてしまうだろう”)ものもある。 
 + 
 +  * (1) [[ex:​a0300]] 
 +  * (2) [[ex:​a0299]] 
 + 
 +これらの表現は、「ようだ」などの形式が用いられているというで[[category:​simile]]であると言ってよいと思われるが、従来の想定のように、隠喩を明示するという機能をもつわけではない。 
 + 
 +==== 文法的シフトと意味的シフト ==== 
 + 
 +[[fn:​backward-mapping]]は、換喩的なSourceからTargetへの写像関係が喚起されるにもかかわらず、文法的な機能によってTargetからSourceへの焦点シフトも同時に喚起される構文を言う。例えば、(1) は、「背」だけが文字通りに走ることはないという意味で、背という身体部分で獣の全体を表す換喩であると言える。つまり、背>​獣という換喩的写像が認められる。同時に、「AのB」という文法構造は、AからBにイメージの焦点を絞る機能があり、獣全体から背の部分にイメージを絞る効果が生じる。この意味で、(1) では換喩が文法に逆行している。
  
-[[fn:backward-mapping]]+  * (1) [[ex:a0537]] 
 +==== 換喩的特徴の同定 ====
  
-==== 推量構文と喩 ====+[[fn:​feature-identification]]は、ある存在の特徴を、その存在自体であるように表現する。例えば、 (1) は、書棚に並ぶ本が、先生の人生を象徴するようなものばかりであったことを表現している。法的にはこの表現は、「そこに並んでいたの」を「先生の人生そのもの」して同定する機能をもつが、述部名詞句は換的な特徴を表すものとして解釈できる。
  
-[[fn:​inference]]+  * (1)「そこに並んでいたのは、本というよりむしろ先生の人生そのものだった」
  
 ===== 構文の一覧 ===== ===== 構文の一覧 =====