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「雄の鳴くたびに『ゲ・ゲ』と満足気な声で受け答えをする」
「雄の鳴くたびに『ゲ・ゲ』と満足気な声で受け答えをする」
Text
「私の眼の下にはこのとき一匹の雄[=河鹿蛙]がいた。そして彼もやはりその合唱の波のなかに漂いながら、ある間(ま)をおいては彼の喉を震わせていたのである。私は彼の相手がどこにいるのだろうかと捜して見た。流れを距(へだ)てて一尺ばかり離れた石の蔭(かげ)におとなしく控えている一匹がいる。どうもそれらしい。しばらく見ているうちに私はそれが雄の鳴くたびに『ゲ・ゲ』と満足気な声で受け答えをするのを発見した。そのうちに雄の声はだんだん冴えて来た。ひたむきに鳴くのが私の胸へも応(こた)えるほどになって来た。しばらくすると彼はまた突然に合唱のリズムを紊(みだ)しはじめた。鳴く間がたんだん迫って来たのである。もちろん雌は「ゲ・ゲ」とうなずいている。しかしこれは声の振わないせいか雄の熱情的なのに比べて少し呑気(のんき)に見える。しかし今に何事かなくてはならない。私はその時の来るのを待っていた。すると、案の定、雄はその烈(はげ)しい鳴き方をひたと鳴きやめたと思う間に、するすると石を下りて水を渡りはじめた。このときその可憐(かれん)な風情ほど私を感動させたものはなかった。彼が水の上を雌に求め寄ってゆく、それは人間の子供が母親を見つけて甘え泣きに泣きながら駆け寄って行くときと少しも変ったことはない。「ギョ・ギョ・ギョ・ギョ」と鳴きながら泳いで行くのである。こんな一心にも可憐な求愛があるものだろうか。それには私はすっかりあてられてしまったのである。」
Context | Focus | Standard | Context |
---|---|---|---|
満足気な | () | 声 |
- この小説では、人間は病に冒されており死を連想させる。そのためか、人間は家などで換喩的に指示される一方、生を感じさせる生物は人間に喩えられる。
Rhetoric
Semantics
Grammar
Construction | |
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Mapping Type |
Lexical Slots | Conceptual Domain |
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Preceding | Morpheme | Following | Usage |
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Pragmatics
Category | Effect |
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評価 (evaluation) | 河鹿が人間のような受け答えをするという「私」の主観的認識が表現されている。 |
自然描写 (description of nature) | 河鹿の「ゲ・ゲ」という鳴き声に、雄の鳴き声に対して満足しているという人間的な感情を感じさせる。 |
最終更新: 2024/01/26 12:13 (外部編集)