レトリックの表現には文法的なパターンがあります。言語は無限の形を生み出す可能性をもっていますが、そのなかで実際に使われる形式はごく一部です。レトリックには、ある形式と修辞的な意味がペアになって、構文をつくっているものがあります。例えば「AのようなB」というパターンからは、多種多様な意味をもったレトリックが生まれますが、たいてい隠喩的な意味を表します。
このページでは用例の文法論的アノテーションについて述べています。
本コーパスでは、「形態素レベル」と「構文レベル」の2つのレベルで文法論的アノテーションを行っています。
形態素レベルでは、文法形態素に関しては助詞、助動詞の分類を行い、語彙形態素に関しては副詞、名詞その他の語彙を分類しています。
文法形態素の分類は「『現代語の助詞・助動詞』分類語彙表番号付与版」(以下『現代語の助詞・助動詞』)を用いています。それぞれの用例の構文には、『分類語彙表』に対応した分類番号のIDが紐付けられており、そこから分類をたどることができます。
語彙形態素の分類は、意味論的アノテーションと同様に『分類語彙表-増補改訂版データベース』(以下『分類語彙表』)を用いています。それぞれの用例の意味には、『分類語彙表』に対応したIDが紐付けられており、そこから分類をたどることができます。
直喩・シミリ (simile)などの用例では、比喩的な意味を表すために、特定の構文の形式が用いられています。例えば「その竹へ、馬にでも乗るように跨りました」「老人はギラギラした目でなめるように擦り寄ってきて」「舞っているように身軽く立ち働き」には「AようにB」という構文が共通して用いられており、Aは比喩の起点領域、Bは比喩の目標領域です(「起点領域」「目標領域」については意味のパターンを参照してください)。本コーパスでは、構文の文法的構造と、構文の語彙的なスロットが表す概念領域の対応関係を分析します。
以下のページは、『現代語の助詞・助動詞』と『分類語彙表』にもとづく形態素のリストです。
以下のような方針で、具体的な用例の文法論的アノテーションを行っています。
例えば「蝉の声が降るように聞こえて来る」では、この表現が次のように比喩的な意味を表しています。
この場合、「が」の用法クラスはが-主語です。このSectionは以下のように、Group、Domainに分類されています。
また、「ように」の用法クラスは様-類似-連用形です。このClassは以下のような分類に入っています。
構文は「AがBようにC」です。
「構文レベル」のアノテーションとして、本コーパスでは直喩・シミリ (simile)の分析結果にもとづいて、「隠喩指向構文」と「換喩指向構文」を区別しますが、分析の進展にともなって、他の構文タイプが必要になるかもしれません。
概念メタファーは、ある概念領域と、別の概念領域の対応関係の集合です(意味のパターン参照)。起点領域(Source)と目標領域(Target)を、何らかの共通要素(Elaboration)によって対応づけるような構文があります。本コーパスではこれを「隠喩志向構文」とよびます。
隠喩志向構文の語彙的スロットは、以下のいずれかを表します。
隠喩志向構文と対照的に、換喩志向構文は概念メトニミーを表す構文です。
換喩志向構文の語彙的スロットは、以下のいずれかを表します。概念メトニミーは領域間ではなく、要素間の写像であるため、「起点要素」「目標要素」とよびます。
現在(2024年1月)では、文法論的アノテーションは主に直喩・シミリ (simile)を対象にして付与されています。しかし、次のようなカテゴリーには構文的なパターンがあり、将来的にはアノテーションが必要です。
※用例数は2024年1月22日現在