目次

「光彩を流している」

Page Type Example
Example ID a2453
Author 梶井基次郎
Piece 「桜の樹の下には」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 46

Text

二三日前、俺は、ここの溪(たに)へ下りて、石の上を伝い歩きしていた。水のしぶきのなかからは、あちらからもこちらからも、薄羽かげろうがアフロディットのように生まれて来て、溪の空をめがけて舞い上がってゆくのが見えた。おまえも知っているとおり、彼らはそこで美しい結婚をするのだ。しばらく歩いていると、俺は変なものに出喰(でく)わした。それは溪の水が乾いた磧(かわら)へ、小さい水溜を残している、その水のなかだった。思いがけない石油を流したような光彩が、一面に浮いているのだ。おまえはそれを何だったと思う。それは何万匹とも数の知れない、薄羽かげろうの屍体だったのだ。隙間なく水の面を被っている、彼らのかさなりあった翅(はね)が、光にちぢれて油のような光彩を流しているのだ。そこが、産卵を終わった彼らの墓場だったのだ。

Context Focus Standard Context
光彩を 流している (発している)

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 流す = 光る 光る=わき上がる

Grammar

Construction
Mapping Type

 

Lexical Slots Conceptual Domain

 

Preceding Morpheme Following Usage

Pragmatics

Category Effect
風景描写 (scene-description) 水たまりに広がっている薄羽かげろうの死骸の様子を表現する。
イメジャリー・イメージ (imagery) 重なり合いながら流れていく薄羽かげろうの羽が放つ光彩が、油のように光沢のある液体が流れている光景として目に映った、という主観的認識が表現されている。
縁語・縁装法 (-) すぐ前の「石油を流したような光彩」に連なる表現。
含意法 (implication) 油が引き合いに出されることで、光のゆっくりとした流れが想起される。