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「鏡のなかの伎楽の面を恐れながら」

Page Type Example
Example ID a2129
Author 梶井基次郎
Piece 「泥濘」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 212

Text

夜晩(おそ)く鏡を覗(のぞ)くのは時によっては非常に怖(おそ)ろしいものである。自分の顔がまるで知らない人の顔のように見えて来たり、眼が疲れて来る故か、じーっと見ているうちに醜悪な伎楽(ぎがく)の腫(は)れ面(おもて)という面そっくりに見えて来たりする。さーっと鏡の中の顔が消えて、あぶり出しのようにまた現われたりする。片方の眼だけが出て来てしばらくの間それに睨(にら)まれていることもある。しかし恐怖というようなものもある程度自分で出したり引込めたりできる性質のものである。子供が浪打際で寄せたり退いたりしている浪に追いつ追われつしながら遊ぶように、自分は鏡のなかの伎楽の面を恐れながらもそれと遊びたい興味に駆られた。

Context Focus Standard Context
伎楽の面 (自分の顔)

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 伎楽 = 顔=神楽
2 = 顔=面

Grammar

Construction
Mapping Type

 

Lexical Slots Conceptual Domain

 

Preceding Morpheme Following Usage

Pragmatics

Category Effect
縁語・縁装法 (-) 先行の「醜悪な伎楽(ぎがく)の腫(は)れ面(おもて)という面そっくりに見えて来たりする」に連なる表現。
誇張法 (hyperbole) 暗闇の中で鏡に写る自分の顔が、伎楽の面(腫れ面)がもつような醜悪さを帯びて見えることが、誇張して表現されている。