目次

「完全に生活圏を出外れて一種の痴呆状態であり」

Page Type Example
Example ID a1832
Author 坂口安吾
Piece 「湯の町エレジー」
Reference 『坂口安吾』
Pages in Reference 378-379

Text

二人は同じ人かも知れないが、銀座で酔ッ払っている時と、ドテラの着流しで温泉街を歩いている時は、人種が違うのである。温泉客というものには個性がない。銀座の酔っ払いは女を見るに恋人という考えを忘れていないが、温泉客は十把一とからげにパンパンがあるばかりで、恋人を探すような誠意はない。完全に生活圏を出外れて、一種の痴呆状態であり、無誠意の状態でもある。

Context Focus Standard Context
痴呆状態 (旅行)

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 痴呆 = 旅行 旅=脳病

Grammar

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Source

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 一種[の] A 変種(へんしゅ)
2 [一種]の A の-範囲・領域
3 A 状態[であり] 状態(じょうたい)
4 A [状態]で[あり] て-補助用言に連なる用法
5 A [状態で]あり ある(ある)

Pragmatics

Category Effect
イメジャリー・イメージ (imagery) 温泉旅行客というものが、一人ひとりの個性をなくし、一様に娼婦との交情しか楽しみにしていないことを背景として、知性が欠如した存在である痴呆として表象することで、自分自身にとっての楽しみを考えない知性の欠如を表現する。
誇張法 (hyperbole) 痴呆になった人のイメージを喚起し、娼婦との交情しか頭にない旅行客の知性の欠如を際立たせる。
人物描写 (description of a character) 痴呆のイメージを喚起することで、娼婦との交情のみを楽しみにする旅行客の様子を描いている。