目次

「絶望が発狂寸前の冷たさで生きて光っている」

Page Type Example
Example ID a1726
Author 坂口安吾
Piece 「白痴」
Reference 『坂口安吾』
Pages in Reference 272

Text

けれども爆弾という奴は、落下音こそ小さく低いが、ザアという雨降りの音のようなただ一本の棒をひき、此奴(こいつ)が最後に地軸もろとも引裂くような爆発音を起すのだから、ただ一本の棒にこもった充実した凄味といったら論外で、ズドズドズドと爆発の足が近づく時の絶望的な恐怖ときては額面通りに生きた心持がないのである。おまけに飛行機の高度が高いので、ブンブンという頭上通過の米機の音も至極かすかに何食わぬ風に響いていて、それはまるでよそ見をしている怪物に大きな斧で殴りつけられるようなものだ。攻撃する相手の様子が不確かだから爆音の唸りの変な遠さが、甚だ不安であるところへ、そこからザアと雨降りの棒一本の落下音がのびてくる。爆発を待つまの恐怖、全くこいつは言葉も呼吸も思念もとまる。いよいよ今度はお陀仏だという絶望が発狂寸前の冷たさで生きて光っているだけだ。

Context Focus Standard Context
絶望が 光って ()

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 = 絶望 失望=光

Grammar

Construction
Mapping Type

 

Lexical Slots Conceptual Domain

 

Preceding Morpheme Following Usage

Pragmatics

Category Effect
イメジャリー・イメージ (imagery) 心の中にただ絶望のみしか認められないという状況が、暗闇の中でただ一つ光る物体のイメージを借りて、視覚的に表現されている。
共感覚表現・共感覚的比喩 (synesthesia) 絶望という感情を、明暗という視覚をつうじて描いている。
アナロジー・類推 (analogy) 暗闇の中では光っている物体しか視認できないのと同じように、当該の文脈においては死の絶望のみが感じられたという印象を与える。