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「この怪物の入学には一方ならず怯えた」

Page Type Example
Example ID a1447
Author 坂口安吾
Piece 「勉強記」
Reference 『坂口安吾』
Pages in Reference 131

Text

生憎(あいにく)なことに、この男には育ちの浅いところがあり、というのは、つまり諸々の人間はすでに数万年以前にゴリラとかチンパンジーというものから人間になってしまったというのに、この先生の祖先だけは漸(ようや)く二三百年ぐらい前にコンゴーのジャングルからやおら現れてきたばかりだという面影があった。諸君も御承知であろうけれども、ゴリラとか獅子とか蟇(がま)とか、みんな考え深い顔付をしている。あの顔付は危険だ。動物園の鉄格子の外側へ野放しにして、所もあろうに涅槃大学の印度哲学科でもうひと苦労考える苦労を重ねるという、思い余った挙句には突然爆裂弾を投げつけたりピストルを乱射したり、それはもうみんなこの顔付のてあいなのである。穏良な坊主の子弟のことだからこの怪物の入学には一方ならず怯えた形で、だから少しぐらい神経衰弱になっても試験のある学校へ行くべきであったと今更嘆いてみたのであったが、栗栖按吉に話しかけられることがあると、気の毒なほどひやりと顔色を変えるのであった。が、幸いにして、読者ももとより御承知の通り、蟇やゴリラはめったに人に話しかけない。

Context Focus Standard Context
怪物 (栗栖按吉) の入学

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 怪物 = 人間 人間=怪物

Grammar

Construction
Mapping Type

 

Lexical Slots Conceptual Domain

 

Preceding Morpheme Following Usage

Pragmatics

Category Effect
過大誇張 (auxesis) 栗栖がひどく乱暴粗雑であるということを強調して、人間ではない不気味な生き物として表現している。
評価 (evaluation) 栗栖に対する乱暴粗雑であるという評価を怪物のイメージによって表現している。