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「釦の多いフロックコートを着たようである」

Page Type Example
Example ID a1186
Author 梶井基次郎
Piece 「ある心の風景」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 282

Text

二列の腫物はいつの間にか胸から腹へかけて移っていた。どうするのかと彼が見ていると、母は胸の皮を引張って来て(それはいつの間にか、萎んだ乳房のようにたるんでいた)一方の腫物を一方の腫物のなかへ、ちょうど釦を嵌めるようにして嵌め込んでいった。夢のなかの喬はそれを不足そうな顔で、黙って見ている。 一対ずつ一対ずつ一列の腫物は他の一列へそういうふうにしてみな嵌まってしまった。『これは××博士の法だよ』と母が言った。釦の多いフロックコートを着たようである。しかし、少し動いてもすぐ脱れそうで不安であった。

Context Focus Standard Context
釦の多いフロックコートを着た () ようである

Rhetoric

Semantics

Grammar

Construction Aようである
Mapping Type 概念メタファー

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Source

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A ようで[ある] 様-類似-連用形
2 A [ようで]ある ある(ある)

Pragmatics

Category Effect
描写 (description) 腫れものをその形状からボタンとして捉え、形状の類似によってさらに性能の類似を導出し、体の皮を留める役割を担わせる。それによって出来た、皮を巻いた姿をフロックコートという衣服に類似すると捉える。
奇想 (conceit) 主人公が抱えている不安の大きさを、主人公が見た夢のグロテスクさを強調することで表現している。