目次

「顔のお白粉を腐らせるように漂って居た」

Page Type Example
Example ID a0885
Author 谷崎潤一郎
Piece 「秘密」
Reference 『谷崎潤一郎』
Pages in Reference 37

Text

何でももう十時近くであったろう、恐ろしく混んでいる場内は、霧のような濁った空気に充たされて、黒く、もくもくとかたまって蠢動(しゅんどう)している群衆の生温かい人いきれが、顔のお白粉を腐らせるように漂って居た。

Context Focus Standard Context
人いきれが、顔のお白粉を 腐らせる ()

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 腐る > 生暖かい 腐る>暖かい

Grammar

Construction AがBようにC
Mapping Type 概念メタファー

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Elaboration
B Source
C Target

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A C が-主語
2 B ように C 様-類似-連用形

Pragmatics

Category Effect
イメジャリー・イメージ (imagery) 密集した人々の体温で温まった会場内に充満する生暖かい空気について、生暖かい場所では腐敗が促進されることを想起させることで、会場内の人の白粉が腐敗したものとして表現する。それによって、腐敗物の微かに甘さを含んだ匂いによって当該の蒸した白粉の発する甘やかな匂いを表現する。
対照法・対照 (antithesis) その場の雰囲気が、「お白粉」の美しさすら全く損ねるほどに不快・醜悪であることを、「腐る(腐らせる)」という腐敗の表現によって対比的に強調している。人いきれに対する強度の嫌悪が際立たせられている。
擬物法・結晶法 (hypostatization) 群衆の身体が発する生温かさや匂いが、お白粉に負の物理的影響を与えているかのような印象を与える。
心理描写 (psychological-description) 自身の白粉が腐るという物理的な腐敗を提示しながら、女装をしている退廃的な心理的腐敗を暗示する。人いきれに対する「私」の主観的認識が表現されている。