目次

「痩公卿の車を牽いてゐる、痩牛の歩みを見るやうな、みすぼらしい心もち」

Page Type Example
Example ID a0673
Author 芥川龍之介
Piece 「芋粥」
Reference 『芥川龍之介』
Pages in Reference 54

Text

第一彼には着物らしい着物が一つもない。青鈍(あおにび)の水干と、同じ色の指貫とが一つづつあるのが、今ではそれが上白んで、藍とも紺とも、つかないやうな色に、なつてゐる。水干はそれでも、肩が少し落ちて、丸組の緒や菊綴の色が怪しくなつてゐるだけだが、指貫になると、裾のあたりのいたみ方が一通りでない。その指貫の中から、下の袴もはかない、細い足が出てゐるのを見ると、口の悪い同僚でなくとも、痩公卿(やせくげ)の車を牽いてゐる、痩牛の歩みを見るやうな、みすぼらしい心もちがする。

Context Focus Standard Context
痩公卿の車を牽いてゐる、痩牛の歩みを見る 心もちがする みすぼらしい

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern

Grammar

Construction AようなB-C
Mapping Type 概念メタファー

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Source
B Elaboration
C Target

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A ような B 様-類似-連体形
2 B - C 統語関係

Pragmatics

Category Effect
人物描写 (description of a character) 下級貴族が下級の乗り物に乗っているという貴族社会における最底辺の様子を提示することで、五位の極めてみすぼらしい様子を表現する。
対照法・対照 (antithesis) 当該人物のみすぼらしさを言い表すのに、公卿を持ち出すことで、もともと華々しかったものの凋落という変化を読み込ませる。また、公卿当人ではなく、その牛に重ねることで悲惨さや憐れさをさらに引き立たせている。加えて、比較的高度な文化的知識を要する語句・概念(「公卿」、「牛」が「牽く」こと、など。)を用いること自体が、当該部分を前後文脈から際立たせ、表現として注目させる。