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「陰惨たる風物と同じような色の着物」

Page Type Example
Example ID a0656
Author 芥川龍之介
Piece 「蜜柑」
Reference 『芥川龍之介』
Pages in Reference 24

Text

しかし汽車はその時分には、もう安々と隧道を辷(すべ)りぬけて、枯草の山と山との間に挟まれた、或貧しい町はずれの踏切りに通りかかっていた。踏切りの近くには、いずれも見すぼらしい藁屋根(わらやね)や瓦屋根がごみごみと狭苦しく建てこんで、踏切り番が振るのであろう、唯一旒(いちりゅう)のうす白い旗が懶(ものう)げに暮色を揺(ゆす)っていた。やっと隧道を出たと思う――その時その蕭索(しょうさく)とした踏切りの柵の向うに、私は頬の赤い三人の男の子が、目白押しに並んで立っているのを見た。彼等は皆、この曇天に押しすくめられたかと思う程、揃って背が低かった。そうして又この町はずれの陰惨たる風物と同じような色の着物を着ていた。

Context Focus Standard Context
陰惨たる風物 着物

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 風物 = 着物 服=風物

Grammar

Construction Aと同じようなB-C
Mapping Type 概念メタファー

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Source
B Elaboration
C Target

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A と[同じような] B と-比較の基準
2 A [と]同じ[ような] B 同じ(おなじ)
3 A [と同じ]ような B 様-類似-連体形
4 B - C 統語関係

Pragmatics

Category Effect
主観化 (subjectification) 発話者が町に対して抱く不快な印象を子供たちに対しても投影する。
心理描写 (psychological-description) 子どもを含めた外界の様子を描写しつつ、主人公の憂鬱さを反映する。
明晰 (clarity) 具体的な服の色合いを表現するために、「風物」という一般的な概念を引き合いに出すことで、焦点が定まらず茫漠とした色のイメージが喚起される。