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「その猛魚に足を喰切られた」

Page Type Example
Example ID a0180
Author 中島敦
Piece 「夫婦」
Reference 『中島敦』
Pages in Reference 222

Text

貞淑な妻を裏切った不信な夫は奸悪な海蛇だ。海鼠なまこの腹から生れた怪物だ。腐木に湧く毒茸。正覚坊の排泄物。黴かびの中で一番下劣な奴。下痢をした猿。羽の抜けた禿翡翠はげかわせみ。他処からモゴルに来たあの女ときたら、淫乱な牝豚だ。母を知らない家無し女だ。歯に毒をもったヤウス魚。兇悪な大蜥蜴とかげ。海の底の吸血魔。残忍なタマカイ魚。そして、自分は、その猛魚に足を喰切られた哀れな優しい牝蛸だ。

Context Focus Standard Context
その猛魚に 足を喰切られた (負かされた)

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 喰切る = 負かす 負かす=食う

Grammar

Construction
Mapping Type

 

Lexical Slots Conceptual Domain

 

Preceding Morpheme Following Usage

Pragmatics

Category Effect
イメジャリー・イメージ (imagery) 自分を牝蛸と捉えることで、無抵抗な状態であることが推論される。その牝蛸の足が喰切られたと表されることで、あっけなさが喚起される。
人物描写 (description of a character) 獰猛な魚たちに捕食される存在である牝蛸になぞらえることで、「自分」の被害者としての立場が描かれている。
心理描写 (psychological-description) 足を喰い切られた蛸になぞらえることで、「あの女」に対する被害感情が描かれている。
誇張法 (hyperbole) 「足を食切られる」イメージによって、「あの女」から受けた被害の大きさが強く感じられる。