目次

「天使と悪魔とを左右にして、奇怪なる饗宴を開きしがごとくなりき」

Page Type Example
Example ID a0016
Author 芥川龍之介
Piece 「開化の殺人」
Reference 『芥川龍之介』
Pages in Reference 224

Text

予は終夜眠らずして、予が書斎を徘徊したり。歓喜か、悲哀か、予はそを明(あきらか)にする能はず。唯、或云ひ難き強烈なる感情は、予の全身を支配して、一霎時(いっしょうじ)たりといえども、予をして安坐せざらしむるをいかん。予が卓上には三鞭酒(しゃんぺんしゅ)あり。薔薇の花あり。しこうしてまたかの丸薬の箱あり。予はほとんど、天使と悪魔とを左右にして、奇怪なる饗宴を開きしがごとくなりき……。

Context Focus Standard Context
予はほとんど、 天使と悪魔とを左右にして、奇怪なる饗宴を開きし

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 天使 = 歓喜 喜び=天人
2 悪魔 = 悲哀 悲しみ=魔

Grammar

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Elaboration
B Source

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A B は-一般的事物に対する判断の主題
2 ほとんど ほとんど(ほとんど)
3 B が[ごとくなりき] が-格助詞「の」に同じ
4 B [が]ごとく[なりき] ごとし-類似-連用形
5 B [がごとく]なり[き] だ-断定・指定-連用形
6 B [がごとくなり]き た-確認・強意-終止形

Pragmatics

Category Effect
心理描写 (psychological-description) 登場人物の心内あるいは当該の場面内に、様々な良いものと悪いものとが同時に存在しているさまに対して、天使と悪魔が居合わせるという空想的な状況を持ち出すことで、その混沌とした様子をより極端に、かつコンパクトに伝えている。
アナロジー・類推 (analogy) 喜びを天使に、悲しみを悪魔に比し、それらと宴を催すという仮想的な事態を提示することで、饗宴の感情の昂ぶりと眠れていない現在の感情の昂ぶりを重ね合わせている。
撞着語法・対義結合・オクシモロン (oxymoron) 本来起こりえないはずの天使と悪魔の同席によって、喜びと悲しみの感情が交互に去来して眠ることができていないことを表している。