目次

「故国ならざる故国に止って」

Page Type Example
Example ID a0007
Author 芥川龍之介
Piece 「開化の殺人」
Reference 『芥川龍之介』
Pages in Reference 217

Text

当時の予が心境を以てすれば、実に明子なきの日本は、故国に似て故国にあらず、この故国ならざる故国に止(とどま)って、徒に精神的敗残者たるの生涯を送らんよりは、むしろチヤイルド・ハロルドの一巻を抱いて、遠く万里の孤客となり、骨を異域の土に埋(うず)むるの遙に慰むべきものあるを信ぜしなり。

Context Focus Standard Context
故国ならざる (故国とは思えない) 故国

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 否定する ←→ 肯定する 是認する<-->是認する

Grammar

Construction
Mapping Type

 

Lexical Slots Conceptual Domain

 

Preceding Morpheme Following Usage

Pragmatics

Category Effect
類義区別・微差拡大 (paradiastore) 語り手にとっての日本は「明子」がいることが前提だと思われるが、その「明子なきの日本」とそれ以前の日本との差異がとても大きく感じられる。
逆説・パラドクス (paradox) 出生地としては故国であるが、心理的には帰属していない(故国ならざる)という逆説的な表現を用いることで、心理的な帰属意識の欠如にのみ焦点を当てる。
対照法・対照 (antithesis) 日本が、「生まれ育った国」という表面的な意味で日本を故国と呼べはするものの、明子を欠いていることから、典型的ないし理想的な意味で真の故国ではあり得ない、という著者の主張が示されている。「故国」の二つの意味合いを対比することで、日本の「故国性」の低さに際立ちが与えられている。